温泉経営者がおすすめする一度は泊まりたい温泉宿#16 川原湯温泉-丸木屋-
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かっきー
江戸の玄関口と言われた宿場町に生まれ育った生粋の江戸っ子。還暦を迎えた今なお、旅とサーフィンをこよなく愛するアクティブシニア。某夕刊紙に勤務していた経歴を持つ。
マイナーな温泉から秘湯まで、気の向くままに温泉へ出かけることが大好きです。温泉の良さはもちろん、分かりやすく温泉や旅館などの良さをお伝えしてまいります。
遥か古より人々の心を魅了して、愛され続けてきた日本の温泉文化。現代社会においても日頃の喧騒から離れて、心と身体を癒しに、効験あらたかな源泉や、豊潤な大地からの恵みである旬の美味しい食材を求める温泉巡りは、人気があります。
本企画では、温泉経営者がプロ目線で選んだ「一度は泊まりたい温泉宿」をリレー形式でお届けしてまいります。今回は、多種多様な源泉の湧くことから温泉王国とも言われる群馬県の山あいに佇む、川原湯温泉(かわらゆおんせん)の「丸木屋」をご紹介します。
目次
第16回目は群馬県吾妻郡長野原町の川原湯温泉にある「丸木屋」
提供:丸木屋
第16回となる今回は、前回インタビューさせていただいた鹿児島県の指宿温泉「指宿ロイヤルホテル」の細川さんがおすすめする、群馬県の吾妻郡長野原町(あがつまぐんながのはらまち)にある川原湯温泉(かわらゆおんせん)「丸木屋」の経営者へインタビューしました。
丸木屋のある川原湯温泉は、群馬県北西部の吾妻郡に位置し、周辺の多くは山あいとなり標高500mを超える高地にあります。
周囲には浅間山麓や浅間高原地帯が広がり、東西に流れる吾妻川の渓谷は、吾妻峡(あがつまきょう)という名称で国の名勝に指定されているなど、恵まれた自然環境に囲まれています。
丸木屋は、楓やくぬぎ、瀬や淵など、変化に富んだ景観を望む吾妻川の中流に流れ込む大沢川の畔に、ひっそりと佇む大人の隠れ家といった趣のあるお宿です。
逆境を活かしお宿を継承する「丸木屋・樋田泰彦(ひだやすひこ)さん」
丸木屋 4代目若旦那 樋田泰彦さん
◇らくらく湯旅編集部(以降 編集部):特別企画の第16回は、川原湯温泉「丸木屋」の4代目若旦那である樋田さんにお話を伺います。
お忙しい中ありがとうございます。よろしくお願いいたします。
◆樋田さん:よろしくお願いいたします。
都心から2時間、大自然に囲まれて湯浴みのできる川原湯温泉
提供:丸木屋(八ッ場あがつま湖)
◇編集部:川原湯温泉のある群馬県吾妻郡周辺はどのようなところですか?
◆樋田さん:川原湯温泉のある吾妻郡は、群馬県北部で、古くから北毛(ほくもう)と呼ばれる山間部の地域に位置しています。
川原湯温泉自体は、2020年に完成した八ッ場(やんば)ダム建設工事に伴い、2012年頃より現在の場所に温泉地全体が移転したという経緯があります。
周辺には、吾妻渓谷などの国指定の名勝といった景勝地や、草津・伊香保(いかほ)・四万(しま)といった有名な温泉地や、スキー場などの観光スポットが多く点在しています。
出典:PIXTA(我妻渓谷)
◆樋田さん:また川原湯温泉は、日本ジオパーク委員会が認定した地域である「浅間北麓(あさまほくれい)ジオパーク」の東部に位置して、雄大な大自然に恵まれています。
我妻渓谷の70〜80mの高さに架かる不動大橋や八ッ場大橋、落差90mで秋の紅葉や冬には滝が凍結する不動の滝などの絶景スポットも多数あります。
また、川原湯神社、不動堂、薬師堂といった史跡などもあるため、さまざまなお楽しみをいただきながら散策いただけます。
出典:PIXTA(新緑の季節の不動の滝)
◇編集部:恵まれた自然環境に囲まれた温泉地なのですね。
◆樋田さん:他にも、八ッ場あがつま湖には、遊覧船や水陸両用バスに乗ってお楽しみいただくこともできます。
水陸両用バスでは、湖畔の道路を車として走って、そのまま湖面に船舶として航行して周遊いただけるようになっています。
出典:PIXTA(八ッ場あがつま湖を航行する水陸両用バス)
◆樋田さん:八ッ場あがつま湖で、カヌー、カヤック、SUP(サップ)と呼ばれるスタンドアップパドルボードなど、身体を動かしてアクティブに楽しむことも可能です。
提供:丸木屋(八ッ場あがつま湖はカヌーやシーカヤックで漕ぎ出すことができる)
◆樋田さん:以前は、我妻渓谷などの名勝をはじめとする風光明媚な温泉地でしたが、八ッ場ダムの完成によって、これを利用したアクティビティなどの活性化に、地域として取り組んでいます。
開湯800年の歴史と伝統ある川原湯温泉
◇編集部:次に川原湯温泉の歴史についてお伺いします。
◆樋田さん:川原湯温泉の開湯伝説は諸説ありますが、源頼朝が鎌倉幕府成立の翌年となる1193年に鷹狩りに来た際に発見したとされ、800年ほどの歴史があると伝えられています。
その際に着物を掛けたとされる数トンもの大きな衣石も、今回のダム工事の際に発掘されるなど、伝聞以外の事実も発見されています。
この開湯伝説に因んで共同浴場の「王湯(おうゆ)」では、源氏の紋所である笹竜胆(ささりんどう)を掲げています。
川原湯温泉が発見された後、一時期は温泉が枯れてしまったことがあるとされています。
しかし、当時のこの地の人々は源泉がゆで卵のような硫黄臭があることから、卵を産む鶏を供物として捧げて祈ったところ、再び源泉が湧出したとのことです。
これを祝って湯かけ祭という神事が始まり、現在も継承されています。
暦の上では一年で一番寒い日とされる大寒(だいかん)の朝に「湯かけ祭」という神事を行います。
夜明け前の早朝4時から日の出まで、褌一丁の出立ちで紅白に分かれ「お湯湧いた!」にちなんだ「お祝いだ!」の掛け声と共に、威勢良くお湯を掛け合うというものです。
提供:丸木屋(夜明け前、王湯の前に集合して始まる湯かけ祭)
◇編集部:歴史と伝統を継承し、また温泉地全体の移転という逆境をもバネに、それを新たな観光資源として活かして地域を活性化させる素晴らしい取り組みですね。