温泉経営者がおすすめする一度は泊まりたい温泉宿#8 湯田川温泉 -九兵衛旅館-


風格ある建物に魅了。300年以上もの歴史を誇る「九兵衛旅館」

◇編集部:九兵衛旅館の歴史についても教えていただけますでしょうか?

◆大滝さん:九兵衛旅館はおよそ300年以上前に開業した歴史があり、私で11代目の当主となります。

現在の建物は開業当時からの建物というわけではありませんが、木造建築となっており、古い梁には安政5年(1858年)と印されています。これはおそらく安政3年(1856年)の大火で焼失された宿を立て直したものだと思われます。

◇編集部:温泉もお宿も、とても長い歴史を持っているのですね。

源泉掛け流し。庄内の心和む風景と趣向を凝らした浴槽が特長の温泉

◇編集部:九兵衛を含む湯田川温泉は、国民保養温泉地にも指定されていると思いますが、温泉について教えてください。

◆大滝さん:湯田川温泉は湯治場としてゆっくりと安らげる癒しの環境や泉質の効能が認めれ国民保養温泉地に指定されたほか、日本源泉かけ流し温泉協会にも加盟しています。豊富な湯量の源泉は集中管理して、湯田川温泉にある旅館・共同浴場・足湯など全ての温泉浴槽は源泉掛け流しで楽しんでいただけます。

もちろん、当館の温泉も源泉掛け流しとなっております。

提供:九兵衛旅館

◇編集部:温泉街の全ての温泉浴槽が、源泉掛け流しというのは贅沢な自然の恵ですね。泉質の効能が認められたとのことですが、具体的な泉質や効能を教えていただけますでしょうか

◆大滝さん:源泉の泉質はナトリウム・カルシウム硫酸塩温泉。43~44℃の程良い温度の温泉が毎分約1000リットル湧いています。

湯は無色透明・無味無臭で、浴槽の下に針が落ちていても判るくらい澄んでいます。匂いのクセもなく、柔らかい肌触りで刺激がありません。そのため、幅広い世代の多くの方に楽しんでいただいております。

湯田川の温泉施設の中には、湯浴みだけでなく飲泉ができる施設もあります。ちなみに当館では、お米を炊く際に温泉水を使用しているため、飲泉所へ毎日汲みに行っています。

湯田川温泉の泉質は、温泉分析書では入浴の適応症として、リウマチ疾患、痛風・尿酸素質、創傷、高血圧症、動脈硬化症、病後回復期、疲労回復があるとされています。

ですが、この温泉は古くから「中気の湯」とも言われ、いわゆる卒中などの後遺症に効果が期待できるとされ、そういった症状の改善を目的としてご利用いただいているお客様も多いです。

また、ご利用いただいたお客様からは、アトピーに効果があったのでお住まいの近くで販売している場所がないかというご相談を受けたこともあります。

◇編集部:まさに身も心も癒してくれる素晴らしい泉質ですね。お宿の温泉施設はどのようになっているのでしょうか?

◆大滝さん:当館には露天風呂を備えた大浴場「山の湯」と、壁一面の水槽に金魚が泳ぐ大浴場の「川の湯」があります。

時間帯で男湯・女湯を切り替えておりますので、ご宿泊時はどちらの浴室もご利用いただけます。

<山の湯>

提供:九兵衛旅館

<川の湯>

提供:九兵衛旅館

また当館では、檜の浴槽の貸切風呂をご用意しています。やわらかな日差しが差し込むプライベート空間で、ご家族や友人の皆様で湯浴みをお楽しみいただくこともできます。

提供:九兵衛旅館(貸切風呂)

◇編集部:温泉付きの客室もあるとお伺いしました。

◆大滝さん:はい、客室風呂のあるお部屋を5部屋ご用意しています。

提供:九兵衛旅館(花ごよみの間)

◇編集部:客室風呂ながら広々とした空間で、ゆったりと温泉を満喫できそうですね。

あえて高級食材は使用しない。地産の旬の食材をふんだんに味わえる料理の数々

◇らく湯旅:温泉も素晴らしいものですが、九兵衛旅館はなんといってもお料理にこだわりがあるとお伺いしました。

◆大滝さん:当館は高級旅館ではなく、リーズナブルな料金で楽しんでいただくためにも高級な食材は敢えて使用していません。

例えば山形県で牛肉というと米沢牛や山形牛というブランド食材をイメージされる方も多いかと思いますが、当館では高価な食材を使わずに、地産の旬の食材に拘っています。

お客様のお声をお借りして申し上げますと、またとないその時期の旬の食材を使ってひとつひとつのお料理に手が込んでいて美味しいと大変喜んでいただいています。

◇編集部:素晴らしい取り組みですね。地産の旬の食材ということで、天候などによっても生育具合が変わってきたり、入荷できなかったりとご苦労も多いのではないでしょうか。

◆大滝さん:当館は旅館の規模の割には、調理人の数が多いにも関わらず、長時間労働となってスタッフには苦労をかけてしまっています(苦笑)。

ですが、料理への拘りを徹底して取り組んできた甲斐もあり、現在のコロナ禍の時節柄にあってもリピートのお客様に支えていただき、スタッフの励みともなっています。

◇編集部:旬の食材にはどのようなものがあるのでしょうか?

◆大滝さん:夕食のお料理は、庄内地産の旬の素材づくしで季節ごとに「基本プラン」と「特別プラン」をご用意しています。

いちばんの人気は、5月の孟宗竹(もうそうちく)と呼ばれる筍を素材とした「孟宗の膳」です。

湯田川温泉は「孟宗と梅の里」とも言われるほどの地産の特産品で、この期間の夕食は孟宗の筍づくしのお料理だけを丹精を込めて作り、ご提供しています。

この孟宗の膳を食べるために当館へ訪れてくださるお客様も少なくありません。お客様の期待に応えるために私自ら、当館が管理している竹林に肥料をまくなど、日々心を込めて育てております。

新鮮な食材をお客様にご提供すべく、毎朝筍を取りに行って調理をしています。

提供:九兵衛旅館(孟宗の筍)

もしも筍が食べられないというお客様には、時期をずらしてご利用いただいています。

また中には、ご予約の際にメインの食材が筍だけとご案内すると、ガッカリされるお客様もいらっしゃいます。しかし実際に訪れていただいた際には、筍を食材にしたお料理のバリエーションの豊富さと、美味しさに驚かれ大変喜んでいただいています。

提供:九兵衛旅館(孟宗の膳)

特別プランは他にも、6月から7月にかけては夏が旬となる日本海の天然岩牡蠣をメインとした「岩牡蠣の膳」、11月からは冬の日本海を代表する食材ズワイガニの「ズワイガニの膳」、1月からは「寒鱈(かんだら)の膳」、2月には「アンコウの膳」などがあります。

<岩牡蠣の膳>

提供:九兵衛旅館

<ズワイガニの膳>

提供:九兵衛旅館

<寒鱈の膳>

提供:九兵衛旅館

<アンコウの膳>

提供:九兵衛旅館

当館でご提供しているお食事へのこだわりは、旬の食材だけではありません。

米どころ庄内ならではのおもてなしとして山形が産んだお米を、朝食には「つや姫」夕食には「雪若丸」など、出し分けて楽しんでいただいています。

また先ほどもお伝えした通り、お米を炊く際には、飲泉許可を取っている源泉まで温泉水を毎日汲みに行き、それを使用して炊き上げています。

◇編集部:庄内の海の幸、山の幸、数え挙げるときりがありませんね。

◆大滝さん:鶴岡市はそもそも海の幸や、お米をはじめ孟宗竹やだだ茶豆といった在来野菜をはじめとする四季折々の旬の素材が多いという恵まれた土台があります。

その四季折々の旬の食材や食文化が発展してきた地域でもあり、それが認められてユネスコの創造都市ネットワーク「食文化創造都市」に認定された世界の約250の都市のうち、日本国内で唯一認定された都市でもあるのです。

◇編集部:何度も訪れて、その時々の旬の食材を食べ尽くしたいですね。